賃貸における孤独死対策とは? 原状回復や特殊清掃の現実

近年では、賃貸住宅で独り暮らしをする高齢者が増え、誰にも看取られずに死亡する孤独死も増加しています。孤独死は発見が遅れると、臭いや汚れなどにより、原状回復が困難です。そこで、死臭や汚れを除去する「特殊清掃」が必要になります。特に、賃貸住宅では、近隣住民の迷惑にもなるため、なるべく早く原状回復を行うことが大切です。では、誰がいつ、どのように特殊清掃を行えばいいのでしょう? この記事では、賃貸住宅における孤独死の問題点や解決策、原状回復について説明します。

  1. 年々増える孤独死とは?
  2. 賃貸における孤独死の問題点
  3. 賃貸の孤独死を巡る対策
  4. 賃貸で孤独死がおきたときはどうすべきか?
  5. 特殊清掃と原状回復の方法
  6. 相続人や賃貸業者への注意点
  7. 賃貸での孤独死に関してよくある質問

この記事を読めば、孤独死に直面したときの対処の仕方が分かります。いざというときあわてないために、参考にしてください。

1.年々増える孤独死とは?

最近、孤独死は年々増えているといわれています。まずは、孤独死とはどのような状態を指すのか、なぜ孤独死が増えているのか、時代背景と現状について知っておきましょう。

1-1.孤独死の定義

大辞林によると、孤独死とは以下のように説明されています。

誰にも看取られず死亡すること、特に一人暮らしの高齢者が自室内で死亡し、死後しばらく経って初めて遺体が発見されるような場合についていう。

政府では「孤立死」という表現を、同様の意味で使っています。一方で、孤独死という言葉は学術的・統計的検討がなされていないのが実情です。また、法的にも明確な定義はされておらず、孤独死は「異状死」として扱われています。

1-2.孤独死が増えた時代背景と現状

近年、孤独死が増えてきたのは、どんな時代背景が関係しているのでしょう? 近年は単身の高齢者世帯が増えています。内閣府が発表した2017年(平成29年)の高齢社会白書によると、単身高齢者は2010年には479万世帯だったのが、2015年には592万世帯に増加しました。この増加傾向は続く見通しで、2025年には700万世帯を超えるともいわれているのです。
この背景としては、核家族が増えたことがあります。子どもが独立すると夫婦だけになって、やがてどちらかが死亡すると単身世帯となってしまうのです。また、離婚も増えていることから、死別以外でも一人暮らしとなるケースがあります。加えて近年では、未婚のまま高齢になっても単身世帯というケースもあるでしょう。
孤独死の全国統計はありませんが、東京都福祉保健局の東京監察医務院によると、東京23区の場合は、「一人暮らしで65歳以上の人の自宅での死亡者数」は、2003年に1,451人でした。その後徐々に増加し、2015年には3,127人に達しています。これは、1日当たり約8.5人が孤独死で亡くなっている計算です。このような増加傾向は都市部に限らず、全国的なものといえるでしょう。

出典:高齢社会白書

また、孤独死は高齢者だけがなるものではありません。それは、(一社)日本少額短期保険協会 孤独死対策委員会が毎年発表している孤独死のレポートからわかります。2018年度の第3回孤独死現状レポートによると、50代までの現役世代の孤独死は、男女ともに全体のおよそ4割を占めているのです。

2.賃貸における孤独死の問題点

賃貸における孤独死は、借主にとっても貸主にとってもそれぞれに問題点があります。

2-1.孤独死はなぜ急増しているのか?

前項1-2でも触れたように、近年は高齢者の一人暮らしが増えています。同時に、賃貸住宅における一人暮らしも増加の傾向にあるのです。国土交通省の調べによると、2013年時点での賃貸住宅における高齢者世帯は162万世帯で、そのうち、121万世帯が単身世帯となっています。これは、5年間で約1.4倍の増加です。この増加傾向は、団塊の世代が75歳以上になる2025年のピークに向けて拡大するでしょう。
こうした人口構成や家族構造の変化に加え、地域コミュニティの希薄化により、一人暮らしの高齢者が地域・他人との交流を持たず孤立していることも、孤独死の増加の要因といえます。

2-2.賃貸での孤独死が抱える問題とは?

よくある問題点について解説します。

2-2-1.責任や義務がケースバイケース

賃貸住宅での孤独死は、自然死か自殺か、発見時の状態はどうかなど、状況によって果たすべき責任の内容が変わります。まだ判例も少ないことから、弁護士によっても見解が分かれることもあるのです。自分が相続人や賃貸契約の連帯保証となっている場合、不当な請求をされないように注意が必要でしょう。誰に何の責任や義務があるかは、弁護士に相談する必要があります。

2-2-2.原状回復の費用負担

遺体の発見が遅れると、激しい異臭や汚損により、特殊清掃だけでなく、原状回復のリフォームが必要になります。原状回復には、汚損箇所だけでなく、壁・床全体、設備までリフォームする必要があることもあり、費用の負担が重くのしかかるでしょう。原状回復をどこまでやるか、その費用は、だれがどこまで負担するかなど、借主の遺族などと貸主との間で話し合って決めなければなりません。貸主にとっては、死亡者の身寄りが見つからなかったり、連帯保証人も亡くなっていたりする場合には、すべて自己負担で原状回復しなければならないリスクもあります。

2-2-3.事故物件として建物価値の損失

孤独死のケースでも、長期間発見されず遺体の損傷が激しい場合や自殺が疑われる場合などでは、その物件は「事故物件」として扱われることがあります。この場合、次の入居者に「告知義務」が生じ、結果として入居者が得られないことになりかねません。また、家賃の減額が生じる場合もあるのです。こうなると、貸主は借主の遺族などに損害賠償を請求することになります。

2-2-3.遺族の精神的負担

孤独死で亡くなった借主の遺族は、短期間でさまざまなことをする必要があります。腐敗臭などで周囲に迷惑をかけている場合はなおさら、原状回復のための特殊清掃やリフォームを急ぐ必要があるでしょう。さらに、遺品整理から賃貸契約の解除までを短期間で完了させなければなりません。一方、並行して葬儀の準備も必要です。親族を悲惨な状態で亡くしたショックや悲しみも癒えないうちに、これらをこなすのは、精神的にも肉体的にもつらいことでしょう。

3.賃貸の孤独死を巡る対策

孤独死を回避するため、また、孤独死による貸主の損失を少なくするためには、どうしたらいいのでしょう? ここでは、賃貸住宅における孤独死対策を紹介します。

3-1.入居時の対策

  • 身元引受人・緊急連絡先の確保:何かあったときにすぐに連絡できるようにしておく
  • 賃貸住宅管理費用保険への加入:原状回復費用・事故後の空室や家賃値下げによる損害に対する補償がある
  • センサーの設置:トイレや居室の扉、家電品などホームセキュリティーと連動し、一定期間動きがなければメールが届くようなシステムを組んでおく
  • 契約内容の見直し:孤独死による原状回復に対する特約を契約内容に盛り込む

3-2.病気、災害時などの対策

前述の孤独死現状レポートによると、孤独死の約6割が「病死」です。病死の場合は、早期発見できれば助かる可能性もあります。そのため、日常的な見守りや安否確認などの活動が有効です。
一方、大規模災害時には、仮設住宅入居後に周囲から孤立するケースが多く見られます。特に生活困窮者に対しては、行政側の訪問など、積極的な関与が大切です。

3-3.コミュニティの復活

自治会や町内会の活動、日頃の声かけにより、1人暮らしの人を孤立させずにコミュニティの輪の中へと招き入れることが大切です。また、民生委員や社会福祉協議会などの訪問は、問題の早期発見につながることも多くあります。こうして、1人暮らしの人の状態を把握し情報を共有しておくことで、何かあったときに素早く対処ができるのです。

3-4.見守りサービス

最近は、NPO団体、民間事業者による見守りサービスの提供が増えてきました。定期的に訪問するサービスや毎日メールや電話で安否確認するものや、室内にカメラを設置したセキュリティサービスなどもあります。これらを、前述の自治会・民生委員や社会福祉協議会の活動などと連携すれば、きめ細かな見守り活動をすることが可能です。
また、新聞・牛乳・弁当など、毎日宅配されるものを利用して見守りサービスにつなげる方法もあります。

4.賃貸で孤独死がおきたときはどうすべきか?

入居者が死亡した場合は、相続人が賃借人の地位を相続します。つまり、相続人が新たな借主として、賃貸借契約の義務と責任を負うのです。この点を踏まえたうえで、孤独死の場合はどのような責任が発生するか見てみましょう。

4-1.誰が何の責任を負うのか?

4-1-1.契約責任と義務について

病死などの自然死による孤独死の場合、相続人に賠償責任はなく、原状回復の義務だけが生じます。これは、自然死(病死・老衰など)に違法性はないため、借主に法行為責任や債務不履行責任は生じないためです。
一方、借主に原状回復の義務が生じることがあっても、借主が相続を放棄した場合は、原状回復費用を負担する必要はありません。そうなると、貸主は賃貸借契約の連帯保証人に費用を請求します。連帯保証人は責任を放棄することはできないため、貸主からの請求を免れることはできません。また、連帯保証人もいない場合(すでに死亡しているなど)は、貸主が費用を負担せざるを得ないことになります。

4-1-2.賠償責任について

賃貸住宅における損害賠償とは、孤独死がおきた部屋に次の借り手が見つからなかったり、家賃を減額したりしたことによる損失を賠償することです。自殺により死亡したときには、損害賠償の請求が認められます。

4-2.清掃、原状回復について

賃貸借契約における原状回復については、国土交通省のガイドラインでは以下のように定義しています。

賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意や過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること。

これは、入居時と同じ状態に戻すということではありません。通常の経年劣化による部分は家主の負担と考えられます。自然死による孤独死の場合は、遺体が早期発見された場合は、通常のガイドラインに沿って負担すればよいという考えが一般的です。しかし、自然死でも死後発見が遅れ、異臭や体液の汚れ・シミが出たような場合は、まだ判例も少なく、意見も分かれています。「貸主・借主のどちらがどこまで原状回復をするのか未確定」というのが現状です。過去には、「惨状の解消」として原状回復費用を借主に請求することを認めた例もありました。
原状回復は、被害のあった場所だけをきれいにすればいいのではありません。次の入居者を確保するために、クロスや床の貼り替えからキッチンやエアコンなどの設備も一新することもよくあります。そのため、家主と借主のどちらがどこまで負担するかをよく話し合って決めることが大切です。

5.特殊清掃と原状回復の方法

孤独死の場合、遺体の発見が遅れると、腐敗による異臭や体液による汚損が生じます。この臭いや汚れを除去するのが特殊清掃です。ここでは、普通の清掃と特殊清掃の違いや業者について説明します。

5-1.特殊清掃とは

5-1-1.特殊清掃と一般の清掃の違い

特殊清掃とは、遺体を放置したことにより生じた腐敗などの汚損を掃除することです。具体的には、以下のように、死臭や体液などの汚れを特殊な薬剤などで除去します。

  • 血液・体液・腐敗汚染物の除去
  • 消臭・脱臭(オゾン処理・防臭剤塗布)
  • 除菌・消毒(薬剤噴霧)
  • 害虫駆除
  • 畳撤去
  • 床・壁・浴槽など該当箇所の原状回復

5-1-2.特殊清掃を頼むタイミング

遺体を発見したら、まずは警察へ連絡しましょう。同時に大家・管理会社にも連絡してください。警察が現場に到着すると、事件性の有無を調べるために実況見分が始まります。このときは現場への立ち入りが禁止されている状態です。事情聴取も行われます。特殊清掃の相談・依頼は、この時点で行うと最も早く対処することができるでしょう。
現場立ち入り禁止が解除されたら、清掃スタッフと部屋の状態を確認し、作業内容の確認・日程の調整をします。この時点では、遺体は運び出され解剖検査または遺族へと引き渡された後です。残されたものはすべて特殊清掃作業の対象となります。

5-1-3.特殊清掃作業と遺品整理

臭い対策と害虫駆除、汚染箇所の清掃・解体・防臭の処置や消毒と合わせて、不用品処分・遺品整理などを同時に行うこともあります。なぜなら、高齢者の一人暮らしの場合、室内がゴミ屋敷のようになっているケースも多く、ゴミや家具・家財道具などにも死臭がしみついていることがあるからです。専門業者なら、適切かつ迅速に処分してもらうことができるでしょう。清掃終了後に遺族の立ち会いのもと、部屋の状態をチェックします。

5-2.業者の選び方

特殊清掃の業者を選ぶとき、以下のチェック項目を参考にしてください。

  • 清掃・消臭技術は高いか
  • 特殊清掃の経験は豊富か
  • 見積もりを無料で行ってくれるか
  • 料金プランは明確か
  • 即対応してもらえるか
  • 遺品整理も対応可能か

5-3.申し込みの流れ、料金など

特殊清掃の申し込みは、ホームページなどから行います。無料見積もりを依頼し、現場を見てもらう日を決めてください。現場を見て見積もりを出してもらい、金額に納得できたら契約しましょう。数社に見積もりを取ると相場が分かるのでおすすめです。
料金は、状況に応じて変化します。それは、遺体発見までの日数と気候、病死か自殺かなどにより、部屋の汚損具合が異なるためです。料金の目安としては、5万~50万円ともいわれます。ゴミ屋敷や床の貼り替えなどリフォームが必要な場合は、費用が大きく加算されることになるでしょう。

6.相続人や賃貸業者への注意点

相続人と大家・賃貸業者に注意してほしいことを説明します。

6-1.早期に清掃することが大切

原状回復で一番厄介なのが、臭いです。臭いの原因は腐敗した体液で、ほんの少量の汚れからも臭いを発し続けます。死臭は想像以上にきつく、時間がたつにつれて深くしみ込むのです。しみついた汚れや臭いは、特殊清掃をしてもなかなか落ちません。真夏など遺体の傷みが激しい季節は、特にスピーディーに対処しましょう。

6-2.料金について

特殊清掃業者や遺品整理業者の中には、法外に高額な費用請求をしたり、技術が低く臭いが取れなかったりする悪質な業者もいます。事前に見積もりを取り、作業の範囲や追加料金がないかなど内容を確認しておきましょう。数社から見積もりを取り、金額と内容を比較することをおすすめします。

6-3.そのほか

原状回復の費用負担について、相続人側と大家側でトラブルになることがあります。賃貸借契約や相続など、法律が関係してくるので、弁護士に相談して解決しましょう。

7.賃貸での孤独死に関するよくある質問

Q.マンションで孤独死が出た場合、同じ建物に住む入居者に告知する義務はあるでしょうか?
A.裁判所によると、もし「自殺者が出ても、同じ建物の住民に知らせる義務はない」としています。しかし、実情としては、大家は後々のクレームやトラブルを避けるために、入居者に事実を知らせているケースが多いようです。

Q.経営するアパートで孤独死がおきました。身寄りがなく、相続人も連帯保証人もいないのですが、部屋の荷物を片付けてもいいですか?
A.この場合、荷物を勝手に処分することはできません。まずは、家庭裁判所へ相続財産管理人の選任請求を行ってください。選任された相続財産管理人によって家財の撤去が行われます。

Q.身内が孤独死しました。特殊清掃後、遺品整理が進みません。すぐに退去する必要はありますか?
A.孤独死を理由に、貸主は借主に退去を迫ることはできません。したがって、家賃を払っていれば退去する必要はないでしょう。遺品整理に手間がかかるようなら、業者に頼むと早く整理することができ、家賃の節約にもなります。

Q.現在アパートで独り暮らしのため、孤独死しないか心配です。どうしたらいいでしょうか?
A.日頃から近隣の人と関わったり、親族や知人とも定期的に連絡したりする習慣をつけましょう。万が一何か異変があったときにすぐに気づいてもらうことができます。なるべく迷惑をかけないために、生前整理しておくのもおすすめです。

Q.自殺者が出た場合には、相続人に損害賠償の請求ができるでしょうか?
A.自殺の場合、自然死と違って借主の「故意や過失による汚損」ということになります。したがって、原状回復のための特殊清掃の費用に加えて、しばらくの間借り手がつかなかった場合の損害賠償も請求できるでしょう。

まとめ

これからも少子高齢化が続くなか、「孤独死」の問題は、誰にとっても身近な問題です。孤独死を避けるためには、日頃から近隣の人に関心を持ち、離れて暮らす親族との連絡を絶やさないことが大切となります。万一、孤独死の問題に直面した場合は、この記事を参考に専門業者に依頼して、なるべく早く原状回復できるよう準備をしてください。費用の負担などでトラブルになりそうな場合は、弁護士に相談することをおすすめします。